深夜特急1ー香港・マカオー
書評
バックパッカーのバイブル
親世代の筆者がインドのデリーから乗り合いバスで最終目的地イギリス ロンドンを目指す道中を紀行としてまとめたもの
本書は、日本出国から香港、そしてマカオと続く旅の始まりのエピソードを納めたシリーズ第一弾
初版が平成六年なので、20年程前に書かれた文章ということになるが、内容は少しも色褪せることなく、読み進めるうちに日常を抜け出し、宛のない旅に身を委ねたい衝動に駆られていく
多くの若者を感化し、バックパックの旅に誘わせた名作
偶然にも筆者が旅に出た年齢が今の自分と同じだったことも相まって、活字の向こう側の世界に没頭し、一気に読了してしまった
内容抜粋
私は失業している若者に昼食をおごってもらっていたのだ。自分が情けないほどみじめに思えてくる。情けないのはおごってもらったことではなく、一瞬でも彼を疑ってしまったことである。少なくとも、王侯の気分を持っているのは、何がしかのドルを持っている私ではなく、無一文のはずの彼だったことは確かだった。
口が動かなければ、手が動き、表情が動く。それでどうにか意を伝えることはできる。大事なことは、実に平凡なことだが、伝えようとする意があるかどうかということだ。
六十セントさえあれば、王侯でも物乞いでも等しくこの豪華な航海を味わうことができるのだ。六十セントの豪華な航海。私は僅か七、八分にすぎないこの乗船を勝手にそう名付けては、楽しんでいた。
賽はなげられた。
ルビコン河を前にしての、ジュリアス・シーザーの有名な台詞である。それを英語にすると次のようになるという。
The dice is cast.
だが、この文章をじっと見つめていると、投げられたのは賽ではなく、死であったかのように思えてくる。いや、賽を投げるとは、結局は死を投ずることだと言われているような気がしてくる。DICEはDIE、賽は死と……。
僕はそういうやり方だから、一人じゃないとだめなんですね。一人だから自由に動いていくうちに頭にだんだん地図ができていく。