深夜特急2ーマレー半島・シンガポールー
書評
シリーズ第二弾
前作のマカオからタイに入国、マレーシア、そしてシンガポールへと続く旅の道中が納められている
著者自身が作中で述べているように、前作に比べて街や国、旅自体に対する熱狂というか情熱というか、なんとなく「熱さ」に欠ける作品
その代わり、旅の道中で出会う現地人と交流を深める描写が多く、筆者が旅人としてのスキルを上げ、考え方や人との接し方を無意識の内に変えていこうとうする変遷を垣間みることができた
内容抜粋
ゆっくり見ていたのでは一日かかっても終わりそうもない。しかし、見終わらないのを覚悟でひとつひとつ立ち止まってひやかしていくと、この街の物価のおおよそのところがわかってくる。ノート一冊、パンツ一枚、ミカン一キロ、靴一足、の値段がわかってくるのだ。
ふと気がつくと、それはいつの間にか日本と日本企業の批判に変わっていた。「日本の企業はひどい。ダムを作れば日本の資材と技師で作ってしまうし、工場を作れば組立て工場ばかり。マレーシアの連中には何ひとつ勉強させず、安い賃金でこき使うばかりだ。アメリカの企業は五十パーセントも上積みして給料をくれるというのに、日本の企業はマレーシア並かそれ以下だ。それならどうしてそんな会社に勤めるのかと言いたいんだろ。わかってるさ。でも、マレーシアには仕事がないんだ。それをいいことに、日本人は吸い上げることしか考えない。」
「それに、旅先で出会う人を必要以上に警戒しない方がいい。その人が悪人で、君たちをだまそうと近付いてくる可能性がまったくないわけではないけれど、それを恐れて関わりを拒絶すると、新しい世界に入ったり、経験をしたりするチャンスを失ってしまいかねない。」
なぜたった一日で会社を辞めてしまったのか。理由を尋ねられると、雨のせいだ、といつも答えていた。私は雨の感触が好きだった。
出てこられることが保障されれば、どんなに苦痛に満ちた世界でもあらゆることが面白く感じられるものなのだ。私自身は何者でもないが、何者にでもなれる。それは素晴らしく楽しいことだった。