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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

ダ・ヴィンチ 2015年7月号 異例の増刷 ~又吉直樹~

ダ・ヴィンチ」バックナンバー異例の増刷

 

純文学小説「火花」により芥川賞を受賞し、一躍時の人となった又吉直樹。そして芸人初となる又吉の芥川賞受賞により増刷されることになったのが、文学雑誌「ダ・ヴィンチ」の7月号。バックナンバーがこのようなかたちで増刷されることは異例のことだという。今、どの書店に行っても「火花」特設コーナーがあり、その横に大体この雑誌も置いてある。もちろん、話題の「火花」は読了済だが、今回は雑誌「ダ・ヴィンチ」をはじめ、様々なメディアで取り上げられる又吉直樹のインタビュー内容から、彼の人となりについて私の想うところを紹介しようと思う。

 

 

 

又吉の人となり

芸能界きっての読書家で知られる又吉直樹であるが、本職はお笑い芸人で、小説で人気を博している現在も自分の軸はもちろん芸人にあるという。ドキュメンタリー番組などを見て彼に対して抱く印象は、「周りの評価を気にせず自分の正しいと思ったことを突き詰めるタイプ」。実際、ダ・ヴィンチ7月号の樹木希林との対談の中でも、そのような傾向を指摘されている。そして、この又吉に関して一番意外だなと私が感じたのが、彼の高校の卒業文集に書かれていた内容。以下に抜粋して記載する。(ちなみに又吉は高校時代、サッカーの名門北陽高校のレギュラーメンバーとして、インターハイへの出場経験もある実力者)


「知識や知恵は何か不幸なことがあったり、ものすごく重い仕事を任されたとき等など精神的に追い込まれてしまった時は、あまり役に立たないと僕は思います。(中略)そんなときは、今までどれだけしんどいことに耐えてきたか、逆境に追い込まれた時、前向きな気持ちを持ってそれを乗り越えてきたかという経験が大切だと思います。僕は北陽サッカー部でそのような精神的な面を育てることができ、将来のための大きな訓練ができたと思います。」

 

まず高校三年生にしては文章が簡潔で上手い。そして尚且つ書かれている内容は、核心を突いており、よくこんなことを高校生の分際で書けるなと感じた。私自身、厳しい社会人生活をある程度経験して初めてこのような心境を抱くようになった。高校の部活動経験を通じて、この境地に至れるのはなかなかすごいと思う。そして何より、中学時代から無類の読書家だった又吉自身が、逆境に追い込まれたときの”知識や知恵の効果”について否定的に評価していることに驚いた。


確かに、とんでもない逆境に陥ったとき、自分を救ってくれるのは自分自身がこれまで積み重ねてきた”経験”だ。このブログでも何度も繰り返し書いてきたように、”実践”がなければどんな素晴らしい自己啓発本の教えも全く役には立たない。ただの時間の浪費だ。知識や知恵は、”経験”を通じて初めて自分の血肉になるのだ。この又吉の卒業文集の内容をニュース番組でたまたま拝見したとき、高校三年生でそのような人生観を持てる又吉に対して、驚きと尊敬の念を抱いた。

 

全ての芸人に共通することだが、下積み時代の苦しさや惨めさは相当なものであるようだ。それを乗り越えて、今世に出ている又吉直樹という人間の真の心の強さは、実は高校時代に一部形成されたていたのだと気付いた。そして、一流の組織は一流の人間を育てる、ということに関しても納得した。

正直、今回の芥川賞受賞までは、又吉のことは本好きの変わった芸人くらいにしか思っていなかったが、小説「火花」の内容も含め、今はその人間性に強く惹かれている。

 

ダ・ヴィンチ 内容紹介

■小学校、サッカーとの向き合い方

自分はといえば、試合に出られても11人中11番目、最後の5分で補欠と交代させられる。「うまくなろうと思ったのは小6の時、コーチがみんなに”自分はサッカーうまいと思うか”って聞いたんです。自分よりもうまいヤツらがみんな”ヘタやと思う”って言ってて、ほんまにヘタなヤツも”ヘタやと思う”って言ってたら、世間は変わらんなあと思って。ここは自分も可能性あるねんぞってことを示したくて”ヘタやとは思わん”と言ったんです。そうしたらコーチが”今、ヘタやと言ったヤツは伸びる”と。もうめっちゃ恥ずかしくて。ここでそのコーチの言葉を受け入れてしまったら自分のサッカー人生も終わる。いや、俺こそが伸びるって、このコーチの言うことは全部否定しようと決めたんです。きつくてもそうするしかなくて」

 

■太宰ナイト

そうして2009年、太宰の100年の誕生日がやってくる。「結局だめやった、間に合わんかったということを、せきしろさんに思わずぼそっと言ったら、”会場、おさえたよ”って」 第一回太宰ナイト開催。ゲストは西加奈子。ギリギリのところでまた何かがつながった。「運がよかっただけ、なのかと思うこともあるけど、でもせきしろさんは、僕がやってたライブを観て興味を持ってくれたわけで、だあれも観てへんと思いながらも好きなことやってたのがよかったんでしょうね。いろんな人に世話になりましたけど、せきしろさん、西さん、中村文明さん、この3人の存在はめちゃくちゃでかいですね。僕からしたらスペシャルな3人だから、その3人が「イイ!」って言ってくれたら、それでもう自信が持てる。 」

 

■生きてる限り、バッドエンドはない

「この頃、後輩と飲んだりすると、俺が”ヤバイ。このまま行ったら売れてしまう”って言ったりしてたんで、後輩たちは”この人、マジで頭おかしいんちゃう”って思ってたみたいですけどね。その予兆もなければ、相方の綾部はひとりでテレビに出てるけど、自分は相変わらず地獄みたいな暮らしをしてるわけですよ。でもヤバイ、あと3年は欲しいのに、ってめっちゃ焦って、その2年は自分でライブを打ったり、ギャグつくったり、精力的にやりましたね。」予感は当たった。2010年、ピースの快進撃が始まる。注目の若手芸人としてテレビ出演が増え、同年9月キングオブコントで準優勝、10月にバラエティ『ピカルの定理』もスタート。

「コントをつくる時も<正しいヤツとへんなヤツ>じゃなくて<へんなヤツとへんなヤツ>になる。小説もそうで、その大きな構造は、僕が昔から想ってきたことでしょうね。自分が常にまともじゃないほう。バカなほうにいたいから、それを正してる人がいても、僕にしたら”正しい人に自分の間違いを正された”と思ったことは一度もない。正しいふりをしたヘンなヤツが、自分のことを正しいと思いながら正しそうなことを言ってる。だから<ヘンなヤツとヘンなヤツ>のほうがリアルやし、そっちのほうが面白い。『火花』でも書きましたけど、やっぱりバッドエンドって何やねんというのがあるんですよ。」