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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

社会保障費抑制の潮流~日本経済新聞9月1日社説~

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社会保障費抑制について、日経新聞を斬る

日経新聞社説シリーズ9月1日版は、社説「診療報酬の減額含め社会保障費抑制」を題材とする。

 

8/28のエントリーで「薬局改革」について取り上げたばかりだが、最近医療関連の政策に動きがあるように思える。社説では「社会保障費」を大胆に削るべきと論じているが、そのような方針転換は、全国民の生活に大きく影響を与える。

 

日経で語られる理想と私が想うところに乖離があったため、今回はその部分について解説しようと思う。

 

 

 

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社説要約

2016年度予算に向けた各省庁による概算要求が出そろった。総額は2年連続で100兆円を超え過去最大になる見通し。先進国で最悪の財政事情を考えれば、不要不急の事業を計上する余裕はない。聖域を設けずに、年末までの予算編成作業で大胆に削り込むべき。

 

予算編成の焦点は、医療サービスの公定価格である診療報酬(※1)だ。16年度は2年に1度の改定の時期にあたる。

 

※1:医師の検査や治療、保険薬局の調剤などの公定価格のこと。患者の健康保険料や窓口負担は税金で賄われているため、診療報酬がプラスになると国民負担が増える。医療機関への報酬である「本体部分」と薬や医療材料の「薬価部分」があり、2年に1度改定する。医療費の膨張を抑えるためマイナス改定を続けていたが、民主党政権になってからは医師不足など医療の質を高める狙いで、引き上げに転じる方向になっている。

 

現状、高齢化を背景に社会保障費は政策経費の4割超を占める。この状況に思い切ってメスを入れなければ、予算の膨張を止められない。そのためにも政府は診療報酬をマイナス改定とする選択肢を真剣に探るべきだ。政府が6月にまとめた財政健全化計画では、多くの社会保障改革のメニューを並べたが、大半は「検討」にとどめ、結論を先送りしたのが実情だ。

 

もちろん子育て支援などへの配慮は必要だ。既存の経費を削りながら、必要な財源を確保する。そんな歳出構造を大胆に組み替える視点を忘れてはならない。概算要求に盛り込まれた個別の事業をみると、東京五輪パラリンピック、観光、地方創生といった内容が目立つ。成長戦略の関連では、人工知能(AI)や、ロボットの技術開発などの要求が増えたのも特徴だ。ただ、観光活性化を名目に従来型の道路整備を要求するなど、観光立国の掛け声に便乗していると疑いたくなる項目も多い

 

政府は財政健全化計画で、国と地方をあわせた基礎的財政収支(※2)を20年度に黒字にする目標を掲げながら、その達成に向けた具体的な筋道を示せずにいる。まずは16年度予算案で財政健全化に本気で取り組む姿勢を示すべきだ。

※2:行政サービスに使う政策経費を毎年の税収などで賄えているかどうかをみる指標で、国債発行を除いた歳入と国債の元利払いを除いた歳出の差で表す収支のこと。プライマリーバランスともいう。

 

社説の論点に対する疑問

日経の社説では「先進国で最悪の財政事情を考えれば、不要不急の事業を計上する余裕はない。」と表現されているが、これはメディアの過剰反応であろう。

 

日本の財政事情は、国債による”借金”が多いため一見して悪く見えるが、日本国債のほとんどは国内の金融機関や個人投資家が保有している状態。つまり、内部で金の貸し借りをしているに過ぎず、財政事情は他の先進国と比較しても健全だ。

 

むしろ、以前のエントリーでも紹介した「地方創生」など新政策の予算について真剣に考えるべきだろう。「観光活性化を名目に従来型の道路整備を要求するなど、観光立国の掛け声に便乗していると疑いたくなる項目も多い」という一文には同感だ。

 

現状、地方創生の政策内容はざっくりし過ぎていて、従来の公共事業との差別化ができていない。このため、地方創生が掲げる一要素「観光促進」を逆手に取り、関連部門が予算を必要以上に計上しようとしているなら論外だ。

 

予算を注ぎ込む新政策に無駄があってはならない。新政策の予算については、行政内部の利害関係を抜きにして本気で考えていくべきだと思う。

 

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冒頭で述べたように、社会保障費の削減は国民の実生活に大きな影響を与える。消費税の更なる増税が決定している状況で、この政策は当然”慎重に”検討する必要がある。

 

社説で述べられている安易な削減案を今推し進めることは懸命ではない。ただ、新しい政策を大々的に進めるために他の予算を削るのは当然の話。

 

検討の結果、もし社会保障費を大きく削るようなことになった場合、その分、有意義な政策を立案・実行し、絶対に成功させなければならない。でなければ国民への説明がつかない。政府の責任は大きいはずだ。