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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞関連の時事ネタを中心に書評ノートを公開中。小説や実用書、自己啓発本についてもたまにエントリー。

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経済統計はなぜブレるのか?〜日本経済新聞12月21日〜

日本経済新聞

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経済統計の精度の問題

大学院時代、統計解析関連の研究を修士論文のテーマにした。膨大な数の論文を読み、自分自身も様々な数理モデルを用いて統計解析を行い、その結果を一つの論文にまとめた経験がある。その経験を踏まえて個人的見解を述べると、統計の世界は割といい加減なものである。ちょうど日経新聞でも「経済統計の精度」について記事が組まれていので、今回はその内容を当エントリーで紹介しようと思う。古くて新しい問題である統計のブレ。その原因と最新の対応策とは?対象の日経記事は、2015年12月21日「経済統計なぜブレる〜政策運営にも影響〜」。

 

 

 

日経記事要約

速報・改定、異なる計算手法

2015年7〜9月期のGDPの実質伸び率は速報値のマイナスから改定値でプラスに転じた。消費統計の矛盾をめぐっても官僚が論争を繰り広げた。「いかに内閣府がいい加減かってことですよ」と麻生財務相。 

速報の前期比年率0.8%減が改定後は1%のプラスに。2四半期連続のマイナス成長に「景気後退か」の印象を抱いた国民も多いはずだ。速報段階のマイナスは設備投資の大幅な落ち込みが主因。速報発表後、安倍政権が企業に設備投資を増やすよう圧力を強めるなど、政策すら左右した。設備投資がぶれたのはなぜか?GDP速報では早めに出る機械メーカーなどの出荷統計から設備投資を推計するが、改定では財務省の法人企業統計で企業から聞き取った数字も加える。今回は出荷統計が減少、法人企業統計が増加と逆に動いた。問題は出荷統計、法人企業統計とも、サンプル調査である点。統計の精度を高めるには調査対象を広げるしかないが、限界がある。

 

消費・投資、変化追いつけず

個人消費の統計をめぐっても論争が起きた。2015年10月の経済財政諮問会議で、麻生財務相総務省の家計調査の精度を批判し、高市総務相が反論する一幕があった。実際、百貨店やスーパーを対象とする商業動態統計の小売業販売額は10月が1.8%増。個人に消費支出を聞く家計調査は2.1%減だった。背景の一つは経済構造の変化だ。商業動態統計はネット通販を含まない。商店などでモノを買う、従来型の消費行動が前提だ。この点、家計調査ではお金の使い道を細かく把握できる。ただ、回答者が家計簿をつける手間がかかるため調査対象が高齢世帯や専業主婦世帯に偏り、一長一短がある。

 

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解決策を模索する

省庁も改善策を探る。「ビッグデータを使うなど作り方を根本的に見直すべきだ」との声も政府内にある。設備投資でも機械を売る側と買う側の統計を細かく分析して異常値を除き、推計の精度を高めている。企業の投資が設備から研究開発にシフトしているのを受け、2016年にはGDPに研究開発費を反映させる。だが、いたちごっこは続く。例えば住居に有料で旅行者を泊める民泊を統計でどう把握するか。すでに外国人観光客の大量買いが日本人の消費動向を見えにくくしている。経済運営に欠かせない、より良い物差しを探す作業は続く。

 

感想

統計という分野では何よりも「前提」が重要になる。

まずは”サンプル”。母数が適切な規模であるかどうかで統計の精度は左右される。生命保険分野で「”大数の法則”に基いた生存率・死亡率」という絶対的統計指標があるように、統計値は一般的に母数が大きくなればなるほど正確な値に近づいていく。記事の中でも述べられているように、政策を左右する統計調査が、サンプル調査で終わっている点に私は危機感を感じる。一方で予算の問題も無視できない。限られた予算のなかで、速報性と精度をバランスさせるしかないことに歯がゆさを感じずにはいられない。

次に重要なのが”切り口”。同じ対象を分析するにしても、どの指標に焦点を当てるか、または考慮に入れるかによって結果は全く異なってくる。「商業動態統計」と「家計調査」の統計値に乖離が発生したのがよい例だ。経済構造の変化を捉えられなかった結果、商業動態統計はブレたと言ってよい。

”サンプル”と”切り口”がしっかりしていないと「使える統計値」は算出できない。しかしながら、多くの研究論文を読めば分かるように、統計値は発表者にとって都合の良い結果を導き出すための設定で計算されている。統計の使用には、そのような体質が元来染みついているといってもよい。本来であれば、数理モデルの前提にマッチしているか、結果の精度が適切かを測る指標を公開し、その統計値の妥当性を判断できるようにしなければいけない。逆に参考にする側もその妥当性をきちんと判断できなければならない。

たかが統計、されど統計。政策を左右する統計。その本質を見極め、注意深く使用していく必要がある。