kaidaten's blog

kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

元日銀総裁から学ぶマイナス金利が経済に与える影響

f:id:kaidaten:20160218115701j:plain

日銀総裁マイナス金利の影響について語る

銀行が新たに預ける「日銀当座預金」の一部金利を、初めてマイナス0.1%へと下げることを日本銀行が決定した。黒田総裁のもと、大きな決断を下した日銀。その施策にどのような意図があるのか?元日銀総裁、現経済研究センター理事長の岩田一政氏の見解を当エントリーで紹介しよう。対象の記事は、日本経済新聞2016年2月7日三面での一問一答。

 

日本経済研究センター理事長

f:id:kaidaten:20160218145007j:plain

岩田一政。1970年東大教養学部卒。旧経済企画庁を経て、東大教授や日銀総裁を歴任した。2010年から現職。69歳。

 

 

 

日銀のマイナス金利の決定。どう評価すべきか?

日本では人々の予想物価上昇率が低下し、再びデフレ圧力が強まるリスクが高まっている。中国などの経済減速や人民元相場の下落、原油安を背景にマーケットも不安定になっている。放置すればアベノミクスが逆回転する恐れがあった。日銀の決定はそれに歯止めをかけ、デフレ圧力の再燃を防ぐ効果を持つと考えられ、評価できる

 

かねてよりマイナス金利政策を提唱していたがなぜ?

日銀が2013年4月に始めた量的・質的緩和で手掛けてきた長期国債の購入に限界が見えてきていたからだ。金融機関は担保に使うため一定の国債を手元に置いておく必要があるので、日銀が今のペースで国債を買えば、2017年6月に限界が訪れる。追加緩和によって買い入れ額を増やせば限界はさらに早く来ることになる。追加緩和の余地を広げる新たな制作の工夫が必要だった。そのためには名目金利がマイナスにならないという『ゼロ金利制約』を打破する必要があった。今回の政策はその点に踏み込んだものだといえる

 

どのようなメカニズムで景気が刺激されるのか?

主に2つ。まず金利低下が経済を刺激するルートだ。当座預金金利のマイナス化を起点に、短期金利がゼロ未満に誘導され、長期金利にも低下圧力がかかる。これを受けて、銀行の貸出金利社債の利回りが下がり、企業の投資や個人の住宅購入など経済活動が刺激される。

もうひとつはリスク性の資産の購入が増えて、市場環境を好転させるルートだ。国債の利回りが低下すると、投資家のお金が国債以外の株式や外債などに向かいやすくなる。その結果、株価が上がれば資産効果によって個人の消費が刺激される。企業の資金調達も容易になる。円高圧力が緩和されれば、輸出企業の業績悪化を防げる。年初来、円高が進行し、人々の心理を悪化させていた。それを防止する効果は特に重要だ。

 

当初「2年程度」とされた日銀の2%物価目標の達成時期は先送りされてきたマイナス金利で早まるか?

2%目標の達成時期見通しは、今や『2017年度前半頃』となっている。当初から数えれば4年以上かかることになる。経済・市場環境の悪化により何も手を打たないとこの達成時期がもっと遅くなりかねなくなっていた。マイナス金利政策は2%達成時期を早めるものというより、さらに遅くなるのを防ぐものだといえる。

 

 

 

銀行収益が打撃を被り、融資が滞らないか?

日銀当座預金の金利がマイナスになると銀行の金利収入が減るのは事実だ。マイナス金利が適用される預金の増え方によっては最大で2千億円程度の下押し効果があるとみられる。ただ長期金利の低下は国債相場の上昇を意味するので、国債を持つ銀行は利益も手にする。黒田総裁も金融機関の収益に過度の影響が出ないようにすると述べているので、日銀は従来より高い価格で国債を買うとみられる。その面では銀行の収益にプラスであり、差し引きプラスかマイナスかについては、今後の展開を見極める必要がありそうだ。

 

金融政策だけで日本経済の再生は可能か?

マイナス金利政策はそれなりの効果を持つものだが、過大評価することはできない。人口減少に歯止めをかけ、労働市場の制度改革を進める成長戦略を通じて、自然利子率(景気刺激でも引き締めでもない均衡実質利子率)を高めることが求められる。そもそも、日本では長期停滞のもとで自然利子率が1990年代半ば以降、マイナスに低下したとみられる。足元でマイナス0.5%程度と試算される。日銀がそれを下回る水準まで実質金利(物価変動分を調整した金利)を誘導し、金融緩和的な状況を作りだすことが簡単ではなくなっている。この状況を改めるためにマイナス金利政策は有効だが、同時に成長戦略によって日本経済の実力を強め、自然利子率を引き上げる必要もある。