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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

絶妙なサブカル「ボクたちはみんな大人になれなかった」

 男心をくすぐるサブカル恋愛小説

ボクたちはみんな大人になれなかった

ボクたちはみんな大人になれなかった

 

久しぶりの書評。最近本を読む時間がめっきり減ってしまった。

 

昼休みに職場近くにあるジュンク堂に気分転換も兼ねて通っている。商店街の一角に佇む店内には窓際に腰掛けて本を試し読みできるスペースがある。暇つぶしには重宝する空間だ。

 

昼食や移動時間を考慮すると店内で読書できる時間は15〜20分程度。加えて午前中のデスクワークで頭が疲れているので、小難しい実用書などには手を出さず、スラスラ読み進められる小説を好んで読む。

 

そんな私の昼のささやかな時間を大いに充実させてくれたのが、本書「ボクたちはみんな大人になれなかった」だ。

 

有名人のコメントが所狭しと記載された帯に目を惹かれて読み始めてみると、これがまたおもしろい。男は大なり小なりサブカルチャーが好きだ。そんなサブカルが随所に散りばめられた恋愛小説に心踊らされた。

 

物語の舞台はノストラダムスの大予言で賑わう2000年前後。主人公は映像制作のベンチャー企業で働く若者で、サブカルの代名詞とも言えるむげん堂で働くお世辞にも綺麗とは言えない彼女と出会い、恋をする。お互いの居場所を求めるように不器用に愛し合う二人の様子と、当時の若者に流行していたスタイルが行間から読み取れて、なんだかすごく懐かしく切なく面白かった。

 

僕たちは、こうやって不器用に大人になったんだ。そう実感させられた。多くの人にとって、青春時代とは、生き恥を晒して生きた期間のことを指すのかもしれない。泥臭く甘酸っぱい。生涯の記憶に残る期間。それが青春。本書の主人公に自分を重ね合わせては、そうだよなーと思うことが何度もあった。

 

傷跡が痛々しく残るほどのバイク事故を起こしたにも関わらず、配達物を取引先に届けなければならないと急ぐ主人公。心が荒みきっているいるときとはそういうものだ。自分の中での優先順位の判断がつけられなくなる。ブラック企業に務める真面目な社員の典型だ。そういう感じ、すごく分かる。人間てそういうところあると思う。

 

小説はやっぱいすごい。簡単に言葉にできない感覚を、ストーリーを介在させることによって見事に表現している。この微妙でなんともいえないもどかしい感覚。

 

是非読んでみてほしい。移りゆく時代を生きる我々に、人として生きる上で大事な何かをほんのちょっとだけ教えてくれる一冊に仕上がっている。