圧倒的な美しさ「羊と鋼の森」
羊と鋼の森
美しい。圧倒的な美しさ。
こんなに繊細な小説が近年あっただろうか。いやない。紡ぎ出される言葉すべてが丁寧に丁寧に扱われている。
暖かい木のぬくもりを感じるような世界観。凛とした冷たさを伝えているような世界観。
調律師という職業すら知らなかった私にとって、音の響きにこれほどまでの深さがあることは驚きであった。ピアノの中の構成に限らず、周りの環境も大きな要因となる。無限の組み合わせの中から、自分の直感に近いものを信じて、針の糸を通すように音を決めていく。
ピアノは羊毛を固めたフェルトに鋼のハンマーを当てることで音を奏でる楽器なのだ。「羊と鋼」。羊と鋼の森から奏でられるメロディが、古今東西あらゆる人を魅了してきた。その音を作るのが調律。
おもしろいじゃないか、調律。
物語のキーパーソンとなる女子高生の双子ちゃん。これもまたいい。勝手に彼女たちのイメージを膨らませてついつい想像してしまう。主人公は、彼女らと関わることで確かに歩みを進めている。飛躍のスイッチとなる。
なんなんだろう。この完璧に美しい物語は。奇をてらっているではない。ただただ丁寧で美しい文章。純粋に美しい文体。
読み終えた後の爽快感。心の暖かさ。こんな感覚は初めてだ。
間違いなく今年の冬、最高の一冊だ。