kaidaten's blog

kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

無印良品は、仕組みが9割

書評

独自のシンプルなデザインで生活用品からアパレルまで幅広く展開する「無印良品」の社長、”松井忠三”さんの著書

 

三十八億円もの赤字企業をV字回復させ、今尚その成長を継続させる秘訣は、MUJIGRAMと呼ばれる練りに練られた「マニュアル」だった。

 

マニュアルというと、一見受け身な印象を抱きがちだが、無印良品のMUJIGRAMは現場の社員の意見を取り入れ、日々更新され続ける”生きた”業務標準書だ。

 

かつて無印良品は、前母体「西友」の文化をそのまま引き継ぎ、店長のこだわりによって各店舗のサービスが異なる、仕事の伝承も”口伝の世界”で、担当者がいなくなると仕事が回らなくなる、という非効率さが散見される企業だった。

 

その後、2001年から松井忠光さんが社長として指揮を取り、苦労しながら作成したのがMUJIGRAMであった。この業務標準書は、今尚社員の手によって更新し続けられ、常に現状のトレンドに合致した最適な状態にチューニングされている。これによって、たとえ新人であっても、ベテラン店員と同じ判断基準で業務に臨める体制が無印良品に整えられた。

 

「業務効率化によるコスト削減」、「サービスレベルの標準化」は、小売業だけでなく、あらゆる企業が抱える課題の一つだと思う。その課題にどのようにアプローチしていくのか、残業文化が蔓延する日本社会において、これから本当に真剣に考えていかなければならない。無印良品はその課題を”進化し続けるマニュアル”によって解決した。この企業に学ぶことは少なくないと思う。

 

 

 

内容抜粋

 

仕事の効率も、「仕組み」によって高まります。仕組みをつくり、共有して、実践・改善していく。すると、ムダな作業は減り、仕事に迷いがなくなります。余裕をもって業務に取り組めるようになるでしょう。結果、仕事の効率が上がっていくのです。

 

スタートから20年が経ち、ブランドの”革新的な部分”が、お客様のニーズに遅れるようになってきたことが一番大きな原因ではないか、思い至ります。さらに、西友セゾングループの一員だったことも影響していました。セゾンから、経験と勘を重視しすぎる体質を受け継いだたため、社員が上司や先輩の背中だけを見て育つ”経験至上主義”がはびこっていました。仕事のスキルやノウハウを蓄積する仕組みがなかったので、担当者がいなくなったら、また一からスキルを構築し直さなければならなかったのです。

 

戦略一流の企業と、実行力一流の企業。この二つの企業が闘ったとき、勝つのは間違いなく後者です。多少の戦略の間違いは実行力で取り戻せます。まずは、第一歩を踏み出す決断が必要です。当時のスローガンは「実行九五パーセント、計画五パーセント」

 

ビジネスモデルを見直して、それから仕組みを作っていく。その仕組みに納得して、実行するうちに、人の意識は自動的に変わっていくものなのです。

 

無印良品では、店舗で使うマニュアルを「MUJIGRAM」、本部で使うマニュアルを「業務標準書」を読んでいます。「マニュアル」と呼ぶと、仕事を厳密にコントロールするツールのように思われてしまいそうなので、独自の名前をつけつことにしたのです。MUJIGRAMも業務標準書も、目的は「業務を標準化する」ことです。それまでの無印良品では、店長が思い思いに店をつくり、スタッフの指導もしていたので、店ごとにバラつきがありました。

 

マニュアルとは組織の体質を根本的に変えるために必要なツールです。そのためには作業の一つひとつの意味を考え直さなければならないので、仕事の仕方や姿勢を深く掘り下げるきっかけにもなるでしょう。

 

①本当にその業務は必要なのか、

あるいは、

②足りない業務はないか

をチェックします、そうやって意識して見ると、普段何となくやっている業務にも多くのムダが潜んでいるのだと気付くことができます。

たとえば、一日に何度もチェックしているメールも、見る回数を決め、返信するときにかける時間を決めておけば、メールチェックの時間を短縮できます。

メールを読んでも返事を書くのを後回しにすれば、同じ作業を二度繰り返すことになります。小さな作業ですが、こういったムダが積み重なって、時間が足りなくなるケースがよくあるのです。

 

仕事を覚えるのに十五年かかるのは、上司から部下に仕事の仕方を口頭で教えるという、いわば”口伝の世界”だったからです。私はこれを明文化しようと決めました。十五年かけていた仕事を、新入社員でもある程度できるようにしたかったのです。そうしてできた業務標準書では、経理部の業務は店舗に関する会計だけで十一個のカテゴリーに分かれています。この仕組みができることで、経理の担当者はわずか二年間で一通りの仕事を覚えられるようになりました。五年もあれば一人前の経理部員のレベルです。

 

このマニュアルの目的は何か。それは「誰が指導しても同じことを教えられるようにすること」です。教えるためのテキストが指導者には必要なのです。

 

マニュアルは、業務を標準化した手順書であるだけではなく、社風やそれぞれのチームの理念とも結びついています。マニュアルがこの二つの架け橋としての役割を担っていると言ってもいいでしょう。

 

これは私の信念の一つですが、迷ったときは大変な道を選ぶと、結果的に正しい道を歩めます。マニュアルづくりは手軽にできるとは言えませんが、必ずチームの変革を実現できるはずです。それを信じてつくり続けた人にだけ、成果はもたらされます。

 

無印良品で運用しているほとんどの仕組みは、他社の仕組みにヒントを得ています。オリジナルのものは、ほとんどないといってもいいかもしれません。知恵の源泉は、徹底して他者に求めているのです。どうして、他社を参考にすることを基本にしているのか。それは、「同質の人間同士がいくら議論をしても、新しい知恵は出てこない」という事実に尽きます。

 

私は「当社の常識は他社の非常識」と社員にも何度も伝え、普段自分たちが当然のように行っていることに疑問を持つよう、促しています。外へ目を向けないと自分たちのポジションを正しく把握できず、必要な改革ポイントに気付かないのです。

 

経営の神様と呼ばれるピーター・ドラッカーも「人間社会において唯一確実なことは変化である。自ら変革できない組織は、明日の変化に生き残ることはできない」と語っています。変化こそ成長の源泉であり、組織やチームに内向き志向が定着すると、死に至る病になるといえるでしょう。

 

私は抵抗勢力に対し、そのような反応はしません。”ゆでガエル”状態にして、染め上げていく方法を取っています。

たとえば、MUJIGRAMをつくるときも反対勢力は少なからずいました。そこで私は、反対勢力の彼らを、あえてMUJIGRAMの作成の委員に任命しました。責任者として、積極的に作成にか関わらざるを得ない状態にしたのです。そうすると、最初は”仕方なく”という気持ちもあるのでしょうが、やはり自分の得意であり、こだわりのある分野についての仕組みをつくるとなれば、知恵を出すようになっていきます。

 

私の場合は、あえて難しい選択肢を選ぶように心がけています。難しい選択肢にこそ、問題を解決する本質が潜んでいるケースが多いからです。

 

もし無口な部下に積極的にコミュニケーションをとってもらいたいのなら、人との関わりの重要性を説明したり、消極性を責めるのではなく、その部下が毎日周囲に声をかけないと業務が進まないような仕組みを用意すればいいでしょう。意識改革とは、人の性格を変えるのではなく、仕事の仕方を変えることで、自然と実現できるものなのです。

 

努力を成果に結びつける仕組みを、いかにつくり、運用するか。正直にいうと、これはなかなか難しいことでもあります。自動発注システムを導入したときもそうでした。これまで発注担当者の経験則や勘に頼っていた仕事を仕組みに置き換えたことで、

「人が努力して築き上げたスキルを、機械に代わりにできるわけがない」ーそのような不満が現場でくすぶっていたのは、私も重々承知していました。

新システムは”徐々に”現場に浸透していき、一つの仕組みとして根付いたのです、その結果、発注作業は原則なくなり、在庫修正作業も50%から10%に減少。その分、生産性が上がったともいえます。しかし、それだけはありません。

加えて重要なのは、これまで個人の経験や勘に頼っていた仕事が、データとして蓄積されるようになったことです。

 

行き過ぎたホウ・レン・ソウは人の成長の芽を摘んでしまう行為だと私は考えています。常に上司が仕事に絡むので、部下の自主性や自分自身で創意工夫しようとする意識が育たなくなるのです。

 

ラテン系の国の人たちは、ランチに二時間とるというのは有名な話です。さすがにワインを飲むということはありませんが、おしゃべりを楽しみ、エネルギーをたっぷり充電してから午後の仕事に取り掛かります。その分、仕事が終わるのは遅くなり、八時を過ぎると今度はディナーです。ワインを何にするか、何を食べるかを三〇分くらいかけて、仲間とワイワイ話し合いながら決めます。そしてとことん飲み、料理はしっかり食べ、会話はつきることなく、深夜一時くらいまでディナーを楽しむのです。「そんなに遅くまで遊んでいて、明日の仕事は大丈夫なのか?」と思っていると、翌朝九時にはきちんと出社しています。人生を楽しむというのは、こういう生き方をすることなのだな、と思います。仕事以外の自分の時間を楽しむ彼らの生き方のほうがよほど人間らしいでしょう。10年間くらいラテンの国に赴任させていた社員に、日本に戻ってくるように命じても、「もう日本の企業文化には戻れない」と、暗黙の異動基準も考えられたくらいです。冗談みたいな話ですが、ラテン系の国で働くと、それほど価値観を変えられてしまうものなのです。

 

残業をする人は、たいてい同じ人でした。そういう人に共通しているのは、非常にまじめだという点です。仕事には太い幹のような部分もあれば、些末な枝や葉のような部分もあります。だからといって、残業をなくすために仕事の質を落とせばいいという話ではありません。時間内に終わらせることの重要性を認識させ、工夫してもらわなければ生産性は上がらないのです。

 

ノー残業を試みる企業は多いですが、たいていは週一回実施するぐらいですし、毎日残業をなくそうとした企業のほとんどは、失敗しているようです。それは、仕事量を減らさず、人員も増やさず、しかし時間は減らすという不可能なことをやろうとしているからでしょう。デッドラインを設ければ残業が減るというわけではなく、上司が仕事の頼み方を変えたり、常に業務の改革改善を行って「人時」を削減する(仕事をなくす・効率化する)などの工夫をし、ようやく実現できるものなのです。

 

議論をするのも大事なのですが、あくまでも「決めて、実行する」ための会議でなければならないのです。会議の後が本番であり、そこに至るまでは準備段階です。

 

パワーポイントを駆使し、イメージ画像やイラストを多用したり、複雑な図を入れたりと、凝った企画書をつくる人がいます。

 

伝えるべきポイントを自分で把握しているかどうかは、A4一枚で要約できたときに初めてわかるでしょう。

 

自分を常に「アップデートする」法

モチベーションを維持するために役立つのが、マニュアルです。そういう意味では、マニュアルは組織だけでなく、個人にも必要でしょう。

自分で問題点を発見し、それを改善し、実行する。自分のPDCAサイクルが回るようになれば、確実に生産性は向上します。