G20の表明から世界の金融市場の流れを考える~日本経済新聞9月7日社説~
日経新聞社説シリーズ。今回は、9月7日の社説「世界経済安定へ米中の責任示したG20 」を題材に、世界の金融情勢について考える。
社説要約
世界の金融市場が動揺しているなかで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が共同声明を採択し閉幕した。主役は、人民元切り下げで世界同時株安の引き金を引いた中国、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測により新興国の資金流出を招いた米国だ。
共同声明ではまず「市場で決定される為替制度と為替の柔軟性」の重要性を強調。中国の人民元切り下げを意識し、「輸出を押し上げるために自国通貨を競争的に切り下げることを慎む」とする方針をG20として確認したのは当然と言えるだろう。
中国は当局による稚拙な市場との意思疎通が、混乱に拍車をかけた点を忘れてはならない。今後は市場と丁寧に対話することが心掛けるべきだ。
一方、FRBは米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げの是非を判断する。実体経済を踏まえた利上げの検討そのものは妥当だが、実施時期については市場の混乱を避けるよう考慮してもらいたい。金融政策の決定に際しては「注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う」と共同声明が明記したのは理解できる。
国際通貨基金(IMF)によると、今年前半の世界経済は昨年後半と比べて減速している。原油など商品価格の低迷を背景に、新興国を中心に下振れリスクも強まっている。
これに対しG20は具体策を打ち出せていない。各国・地域が適切なマクロ経済政策で景気を下支えしつつ、構造改革を前進させることが求められている。
考えるところ
G20として、金融市場に大きな影響与えた中国と米国に対して「釘をさす」表明が出せたことは良いことだ。今回の件は、先進国一国の金融政策が世界市場に大きな影響を及ぼすことを実証した良い事例となっただろう。
「輸出を押し上げるために自国通貨を競争的に切り下げることを慎む」、「注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う」という表明に対して、各国が真摯な姿勢で取り組んでくれることを願う。
ちなみに、米国の利上げが新興国の資金流出に繋がるメカニズムをご存知だろうか?
米国の利上げは米国国内だけでなく、特に新興国に悪影響を及ぼす可能性がある。そのメカニズムは非常にシンプルで、これまで米国のカネ余りの状態により新興国に流れ込んでいたドルが、利上げすることによりアメリカに戻されることになる。
この結果、新興国内から一気にドルが流出してしまい、深刻な”ドル不足”に陥ってしまう。利上げ→新興国資金流出の構図をご理解いただけただろうか。
また社説では、中国当局と市場との意思疎通が十分に行われていなかった点について触れられている。これは以前のエントリーでも取り上げたことがあるのでお時間があれば読んでみてほしい。
今回の件は、共産党主義の欠点が浮き彫りになった問題だと言える。当局は、体制変革の必要性に迫られているはずだ。
日本にとっても他人事ではない。各国の金融事情に影響されない磐石な経済の基盤を、現在の政策を地道に推し進める中で構築していくことが求められている。