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日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

外資買収の流行から見る!損保・生保市場の現状と経緯~日本経済新聞9月8日一面~

生損保分野で大型買収相次ぐ

このブログでも何度か触れてきたが、最近、保険業界で海外M&Aの大波が起こっている。9月8日付の日経新聞一面でも、三井住友海上を例に損保・生保業界のM&A事情を取り上げている。

 

現職の関連で、私は生保関連の知識をそれなりに持っている。各社のIR等をもとに業界研究を行い、簡単な報告書としてまとめていた時期もある。金融工学系の高度で複雑なことは分からないが、少なくとも業界全体のこれまでの流れをざっくりと説明することはできる。ということで、本エントリーでは、日経の一面記事「英損保を買収 5000億円超~三井住友海上 欧米に収益源~」を題材に、保険市場の現状とそこに至るまでの経緯について考えてみる。

 

 

 

日経一面記事要約

三井住友海上火災保険は英損害保険大手のアムリンを買収する方向で最終調整に入った。三井住友海上は同社の買収により海外展開を加速する。人口減少により、内需の減少が見込まれる今日、買収により海外に収益源を求める動きが活発になっている。

 

■アムリン

アムリンは、「再保険」を主軸にに幅広い保健分野を扱っている老舗保険会社。再保険市場の中心であるロイズ市場(※)の中でも有力メンバーの一つである。三井住友海上の海外M&Aでは過去最大となる。

※ロイズ市場
⇒イギリスのシティ(金融街)保険市場。シンジケートと呼ばれる団体があり、200以上の国・地域の様々なリスクを引き受けている。

 

■大手損保、ロイズ市場でのシェア拡大へ。生保でも買収の動き。

三井住友海上は2000年に日経保険会社で初めてロイズに参入。自前で取引を増やしてきた。しかしながらその後、ライバルの東京海上HDや損保ジャパンが相次いでロイズの有力メンバーを買収。同社も今回の買収を機にロイズでの市場シェアを拡大し、海外展開に弾みをつける狙いだ。国内の損保市場は、人口減や若者の「車離れ」で主力の自動車保険の高成長が見込みにくい。自然災害の多さも収益の圧迫要因だ。
損保大手は収益源を分散するため海外事業を強化している。これまで同社の海外M&Aは、アジア市場の開拓に主眼を置いていた。ただアジア市場は高成長が期待できる半面、足元の中国株安のように、金融市場が混乱する局面で脆さも抱える。より安定した収益源を求めて、欧米向けビジネスが中心のアムリンに照準を定めた。同業他社の動きも活発。損保ジャパン日本興亜再保険大手の仏スコールに出資することを今年3月に表明。東京海上HDは米保険会社HCCインシュアランスHDを買収することを決定した。
生命保険大手も昨年から今年にかけ、第一生命保険明治安田生命保険住友生命保険が米生保の大規模買収に動いた。(以下、図参照)

 

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そもそも再保険とは

そもそも、再保険とは何か?初耳の方も多いのではないだろうか。損保各社は、特定の損害を被った場合の補償を提供することを対価に契約者から保険料を徴収し、金融ビジネスを成り立たせている。しかし、例えば地震や台風等の大規模な自然災害が発生した場合、保険金額の支払いがかなり高額になってしまう。損保の事業運営リスクは生保のそれよりも格段に高い。そこで大手損保各社が利用するのが「再保険」だ。上記のような高額な保険金支払いの危機に陥った場合、保険契約上の責任の一部または全部を外部の専門の保険会社に引き受けもらう。 この保険契約のことを「再保険」と言う。再保険は、損保各社が安定した経営を行っていくうえで、重要な役割を果たしているのだ。アムリンはその再保険の市場で大きな地位を築いてきた。

 

日経損保の動き

記事に書かれているように、損保業界は人口減少や車離れに伴う内需の減少が顕著になり、早くから海外展開に積極的な動きを見せてきた。東日本大震災による被害がそれに拍車をかけた。生保はいわゆる「大数の法則」という絶対的な統計指標の元に事業を運営できる分、比較的安定している。一方で損保は、一度の大規模災害や事故により膨大な保険金の支払いが発生するため、リスクをできるだけ分散させておく必要がある。損保の抱えるリスクは生保のそれより格段に大きい。三井住友や東京海上などの大手損保は、民間と言えども、有事の際に国民の生命線となる重要な役割を果たす。リスク管理を徹底し、安定して事業を推進する義務がある。生保に比べて損保が早くから海外展開し、収益源を多角化してきたのはこのためだ。

 

日経生保の動き

最近では、日経生保(第一生命保険明治安田生命保険住友生命保険)の外資大型買収も活発である。では、その経緯について私なりの見解を解説してみよう。私が生保業界の業界研究を社内で行っていたのは2年半前にあたる2013年前半。当時の生保業界には大きな潮流があった。販売スタイルの改革だ。プルデンシャル生命ソニー生命が「ライフプランナー」というエリート営業マンの活躍により順調に躍進を遂げていた。
ライフプランナーによる営業は、従来の生保レディが行う”義理・人情・プレゼント”によるお付き合い営業とは根本的にアプローチの仕方が異なった。まず、営業マンの大半が男性。厳しい成果主義にさらされた彼らは、プロ意識が非常に高く、高度な知識と人的ネットワークを活かして少数精鋭にも関わらず莫大な利益を社にもたらした。当時のトップセールスマンの年収は2億円を超えることもあったという。そのような背景もあり、生保レディ(いわゆる”生保のおばちゃん”)を用いた人海戦術による営業方針そのものが見直されようとしていた時期だ。この時期特に目立ったのが、営業用のシンクライアント端末の導入だ。タブレット端末の導入により、これまで紙媒体で行っていた見積りなどの事務手続きを、商談時に顧客の目の前で行うことが可能になった。営業員の作業負荷が小さくなったことはもとより、有益な情報をその場で顧客に提供できるサービスが好評となり、スピード契約に繋がった。一社がタブレットを使用したセールスで結果を出し始めたことで、他社もこぞって導入を試みた。生命保険の入門書を読んでもらえば分かるが、顧客が保険商品を決定し、実際に契約が完了するまでには様々な査定手続きがある。その煩雑なプロセスを改善し、商品決定から契約までのタイムラグをいかに短くするかが生保各社の課題である。タブレット端末導入後も各社でITを駆使した新サービスの検討が進められている。

 

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これと並行して、生保の顧客ターゲット層にも変化があった。少子高齢化に伴い、いかにシニア世代を取り込むかが焦点となり、医療保険分野などの開拓が目立った。また、若者の生保離れに対応するため、日本生命の「生きるチカラ」シリーズでは、個人のニーズに合わせて特約を細かく設定できるオーダーメイド型商品の販売にも踏み切った。若者を中心としたニッチなニーズにも対応するためだ。
このようにほんの数年前には、「いかに国内のニーズに応えて契約を獲得するか」に主眼が置かれていた。もちろんこの頃から生保の海外進出は始まっていたが、シンガポールをはじめとした東南アジアへの進出が中心であった。(ただ、記事でも触れられているように、アジア市場は途上途中で収益が安定しなかった)
そして、営業員へのIT投資が一段落ついた今日、戦略の鍵は「欧米」に向いている。これはある意味、損保と同じ動機から来るものだろう。今後、人口減少により内需が減ることはもちろん、契約者の高齢化により、終身保険を中心に保険金支払いによる支出が大きくなることが見込まれている。収入が減るのに支出が増えるような状態だ。このような状況で事業を安定的に運営していくためには、どうしても欧米を軸とした外需を拡大していかなければならない。いわば将来の保険のために買収により外需の取り込みを図っている状況なのだ。2年半前「めんどくせ~」と思いながら興味の無い生保業界の研究をしていたことが、今このようなかたちで自分の知見となってくれているのは嬉しい。

 

以上、「外資買収の流行から見る損保・生保市場の現状と経緯」でした。上記の推論はあくまで私個人の見解。抜け漏れ・誤りがあるかもしれない。あしからず。自分自身で情報の信憑性を判断してください。

 

豆知識

日本の生保業界の規模は先進国と比べても異常なほど大きい。国家による陰謀説もささやかれるほど。私自身、生命保険は最低限の保障をしてくれる掛け捨ての定期保険で十分だと考えている。生命保険の勧誘を受ける際、必ずと言っていいほど、貯蓄型の終身保険を勧められるが、それは単に商品の保険料が高く、営業員のマージンが大きくなるから。金融商品としての魅力はほとんどない。貯蓄目的なら安定した日本国債にでも投資して自力で運用したほうがよっぽど利回りがよい。なぜなら、保険会社自身が国債で顧客のお金を運用しているから。中抜きが入る貯蓄保険はほとんど無価値だと思う。日本には、なぜか保険に入らなければいけないという固定観点が昔から強く存在する。その観念は日本ならではのもので、多くの人々が盲目に不必要な保険に入っている状態にあることを認識してほしい。一度、自分が加入している保険の内容をじっくり見直してみてはいかがだろうか。団塊の世代の方々が加入している保険の場合、元本割れしている商品も少なからずある。(かつての?)生保業界の卑劣さをご理解いただけるはずだ。