こどもが増えた!暴言明石市長の街づくりが実はすごかった
実はやり手だった明石市長
「これまで何やっとってん!一軒だけ残ってもうて!今から火ぃつけてこい!損害賠償個人で負え!」
道路拡幅事業の立ち退き交渉を担当していた市役所幹部に放たれた衝撃的な怒号。市長選前にこの録音テープがマスコミから公開され、明石市長「泉房穂」は一躍時の人となった。
こんな輩が首長とかこの市は終わってんなー、と思っていた矢先、本屋の片隅でひっそり出版されていたこの本。
なんでも明石市は子育て施策でかなり先進的な取り組みを進めており、ここ数年で子育て世帯の人口が爆発的に増えたとのこと。実はこの大胆な子育て施策の舵取りを担っていたのが泉房穂市長だった。子育てへの傾倒は明石市長の独断によるものらしい。明石市の街づくりのキーワードは「ひとに優しいまち」。皮肉すぎわろす。
いや、でも実際、明石市は子育て施策のモデル都市として全国的に有名で、最近は他の自治体からの視察も後を絶たなかったようだ。そんな明石市の成功事例に着目し、街づくりや福祉の専門家と市長の対談本が出版されようとしていたその矢先、あの暴言テープが公開されたのだ。
当然、出版取り止めの話も上がったそうだが、強行突破で出版。話題性もあり、とても良く売れているそうだ。何もなければ関係者にしか読まれなかったであろう超内輪の本。それが今や重版がかかるほどの人気が集まり、結果的に明石市の子育て戦略が多くの読者に目に止まることになった。泉市長最高。
明石市の成長はマジですごい
明石市は兵庫県の太平洋側に位置し、隣接する神戸市や大阪市のベッドタウンとして機能するザ・中途半端な田舎。国道やバイパスはあるものの、高速道路のインター等はなく、流通の観点から見ても大規模な企業誘致は望めない。
昔は淡路島を行き来する"タコフェリー"(明石はタコが特産品。たこ焼きによく似た「明石焼き」とかあるよね)の玄関口として、駅からフェリー乗り場までの動線はそれなりに賑わっていたそうだが、明石海峡大橋が本州と淡路島を結んでからはその役割もなくなり、まさにジリ貧だったそう。
教育機関や企業の誘致が難しい、観光も微妙、そんなイマイチな都市が成長を続けるには、ある分野に特化する必要があった。そこに目をつけたのが泉房穂。
NHK、国会議員のキャリアを経て、地元明石市の市長に当選。福祉事業に明るかった彼は大胆な子育て施策に取り掛かる。
就任当時、市議会や地元業界団体等からはかなりの圧力があったそうだが、文字通りの孤軍奮闘によりこれ跳ね除けて子育て支援を成功させ、明石市の人口をV字回復させる。
地価も目に見えて上昇しており、地主曰く「え?この土地がこんな値段で売れるの?」と困惑するレベルだそう。
地理的条件や観光資源に恵まれない中途半端なベッドタウンが、都市ブランド力を高めて人を集められたことはマジですごいと思う。首長が一人違うだけで、街はこれだけ変わるんだーと感心させられた。
子育て支援はゼロサムゲームではない
明石市の子育て施策に対して寄せられる否定的意見の一つに「となりの市から人を奪っているだけ」というものがある。
明石市の子育て支援は、中学生まで医療費無料(何人でも)・2人目以降の保育料無料というソフト施策と、子育て支援センターや図書館機能の拡大といったハード施策の両面から実施されている。
いやまじこの保育料2人目無料がすごい!月5万円の保育料は無視できない。3人兄弟なら他都市より月10万円節約になる。近隣都市から明石市へのパパママ世代の流入が止まらないのも頷ける。
ここで注目したいのは、たしかに隣の都市から明石市に人が流れ込んでいるのは間違いないのだが、「他の都市では子どもを1人しか産めなかった層が、子育て支援が手厚い明石市では2人以上産める」という状況が発生していること。
この、「お金の負担さえなければもう1人産む」という需要は実は結構あるみたいで、明石市の施策は結果的に総人口を増やす方向に働いている。
全然ゼロサム思想ではない!批判的意見は、近隣都市の嫉妬や焦りから来るものみたいだ。人口減少が深刻化する中で、こういう事例って光じゃない?明石市、というか、泉市長すげーじゃん。
明石市をおかえりなさいと言える街にしたい
子育て支援だけに注目が集まりがちだが、明石市は犯罪被害者支援、加害者の受け入れ支援、そして障害者支援にも積極的。地元をしっかりと巻き込んでおり、明石駅付近の飲食店等には筆談ボードやスロープが設置されているそう。
いくつかのマイノリティを集めるとある程度のマジョリティになる。少数派を排除するのではなく、それを受け入れてしっかり街への馴染み方を考えていくことで、間接的だが、消費が増え、犯罪抑止にも繋がっていく、という考え方だそうだ。
泉市長には知的障害を伴う弟がおり、子どもの頃の原体験が施策立案に大きく影響しているよう。
誰にでもおかえりなさい、と言える街にしたい。この言葉には、進学や就職で他都市に流出した人達が、子育てのフェーズに入ったときに戻ってきてくれればよい、という想いと、どんなマイノリティも明石市は受け入れて支援しますよ、という二つの想いが込められている。深い。
泉氏、市長選立候補する
何の気なしに読んだ本だが、泉明石市長がこんな熱いマインドを持って市政にあたっていたとは知らなかった。
そりゃ、怠慢な幹部職員に喝も入れたくなりますわな。まぁあの恫喝はさすがにないけど...。二面性とはよく言ったもんだ。
泉氏はほどなくして、市長職を辞任したわけだけど、なんと次の市長選に再び立候補するそう。すげーなこのおっさん、メンタルつよっ!再当選したらおもろいなー。明石市民、どう出る!?
【追記】泉市長しっかり再選しましたね。