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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

ルビンの壺が割れた

 一気に読了できる新趣向の小説

ルビンの壺が割れた

ルビンの壺が割れた

 

数ヶ月前におもしろい小説を読んだので感想を書く。

 

ラストのどんでん返しがやばいと何かと話題になっていた本書「ルビンの壺が割れた」。薄くて読みやすそうだたったので、例のごとく会社の昼休憩中に読了。

 

登場人物はかつて婚約関係にあった中年男性と中年女性。物語はSNS上のやり取りだけで描かれる。情景描写なしという制約を設けながらも作品に臨場感を持たせ、読者を引き込ませる見事な手法に脱帽。緻密な計算と表現力があってこそ成り立つ構成だ。

 

物語の始まりは、男から女に宛てた一通のメッセージ。紳士を装っているものの、いかにも未練タラタラな感じが滲み出ていて正直気持ち悪い男。ストーカー体質とはこのこと。こじらせた中年男ってこんな感じなんだなー。人のよい女は結局男に返信を返してしまうのだが、ここからストーリーは彼らの回想へとシフトしていく。

 

かつて大学の演劇サークルで出会った二人。脚本家と演劇部長を兼任し、ちょっとしたカリスマ的な存在だった男。そしてその男に非凡な才能を認められた演者の女。文字どおり演劇漬けの学生生活を送っていた彼らの公演は高く評価され、やがてはスポンサーが付くほどに成長する。男と女はお互いに惹かれ合い、当たり前のように婚約する。しかしながら結婚式の当日、女の姿は式場にはなかった。そこから男の人生の歯車が狂いだす。いや、実はもっと前から...

 

粘着質で承認欲求が強く、空気が読めない残念な中年男性と、控えめだが芯の通った真面目な女。最初に抱いたファーストインプレッションは、物語を読み進めるにつれて鮮やかに崩れ去っていった。登場人物に抱く印象がどんどん変わっていく。これはそういう物語。そしてなんともいえないラスト。「なるほど」と苦笑せざるを得なかった。

 

本を読むスピードが著しく遅い私でも、一気に読めた作品だった。これオススメ。