亡くなった人間をAI技術で”蘇らせる”小説「はるか」
宿野かほるが描く最先端の恋愛小説
前作「ルビンの壺が割れた」がなかなかおもしろかった宿野ほたるの次回作。感想は、「勢いはすごいけど全体的にチープ」。
最近自動運転を皮切りにAIがやたらと流行っているが、ディープラーニングの技術はだいぶ成熟期に入ってきたようだ。本作の物語は、天才プログラマーが亡き妻をAIで「黄泉がえらせる」というもの。
主人公は、画像認識処理を中心に目覚ましい進歩を遂げるAI技術をフルに活用して、生前の人間と会話を再現するシステムを作り上げる。
対象はもちろん亡き妻。あまりの完成度の高さに、主人公は次第にバーチャルな投影映像を人間そのものと錯覚するようになり、やがてAIの指示に従うようになる。
AIからの要求はエスカレートし、ついには殺人を仄めかすようになる。妻を心底愛していた主人公はそれに応じる一歩手前までいくが,,,
みたいな話。
デイープラーニングの技術は初期のニューラルネットワークなどから派生して本当にすごい段階まで来ており、原理的にこれからもさらに高度化していくだろう。結局はプログラミングの書き方や教師データの与え方などの「切り口」が全てになってくるのだが、昨今様々な研究が続けられていることからも、コンピュータと人間の思考の垣根はどんどんフラットになっていくだろう。
AIは目的を与えさえすれば、それに対応する最適解を抽出する。複数のAIをつなぎ合わせた高度なハイブリッドシステムを駆使すれば、より”抽象的”な目的を遂行させることも可能になるだろう。この物語のように感情面から人間を翻弄するようなコンピュータが現れてくるのかもしれない。
そうなればもうターミネーターのような世界だ。深層学習によりAIは新たな思考回路を自動的に生み出し、歯止めが利かなくなる。ただのプログラムなのだけど、自己増殖を積み重ねた結果、人間と大差ない判断力を持ち合わせた何かが生まれた日、人類はどうなっているのだろう。
その頃に私は生きているだろうか。