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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

電力自由化の現状~日本経済新聞8月18日~

 

本エントリーでは 、東日本大震災を機に本格的に大規模導入が検討されている「電力の自由化」について、8月18日の日経新聞1面記事を紹介するかたちで考える。

 

電力自由化とは

電力自由化とは、大手電力による地域独占が続いていた電力制度を見直し、新規参入業者も含め自由に電気を売れるようにする取組みのこと。日本では1990年代から大型工場など大口向けから段階的に自由化が進んできたが、2016年4月には家庭や中小商店などを含めた小売の前面自由化の実現を目指している。政策の主体となる経産省は、この取組みに対して3段階で制度改革を進めている。(以下図参照)

 

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第1弾は今年4月の「電力広域的運営推進機関」の設立。電力会社間の電力の融通を指示し、全国の送電線網の整備計画などをつくる機関となる。そして、制度改革の第2弾は16年4月の小売り全面自由化。今現在、関東地方の家庭や商店は、「東京電力」からしか電気を買えないが、新規参入の業者や、他地域の電力会社から自由に電気を買うことが可能になる。さらに第3弾の制度改革の総仕上げとして、20年4月には大手電力から送配電部門を分離する。電力供給の中枢を担う送配電部門の独立性を高めることで新規参入業者が送電線や電柱を使いやすくする狙いがある。経産省は新規参入が増えれば競争を通じて電気料金が下がりやすくなると見ており、電力業界の外からも参入をしやすくする各種の政策を打ち出している。

 

諸外国における電力自由化発送電分離)について

電力自由化導入済の国

イタリア、イギリス、スペイン、北欧諸国(ノルウェーが発端)などのヨーロッパでは既に発送電分離が完了し、電力の自由化が導入されている。

電力自由化の実績

当初、電力自由化が市場の競争原理にはたらきかけ、電気料金の値下げに繋がることが期待されていた。しかし、実際には発送電分離を実施した国や地域で電気料金が下がった事例は存在せず、実際には電気料金は値上がりしている状態とのこと。以下の研究報告を参考にしてほしいが、発送電分離の是非については、今なお研究途中であり、はっきりとしたメリット・デメリットを語ることができないのだ。

 

発送電分離に関する最近の研究のレビュー(電力中央研究所

http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/download/11029dp.pdf#search='%E7%99%BA%E9%80%81%E9%9B%BB%E5%88%86%E9%9B%A2+%E5%9B%BD+%E5%85%B7%E4%BD%93%E4%BE%8B'

 

日本における現在の取組み

■電力改革第1段階

冒頭で説明した経産省の電力改革3段階の第1弾として、経産省は今年4月、送電設備の計画などを担う同省の認可法人「電力広域的運営推進機関」の検討に入った。2016年の電力小売り全面自由化を前に、大手電力や新規業者(新電力)には従来の地域の垣根を越えて電気を売る動きが広がる。東北でも数社が首都圏向けに電力を売るため火力発電所を建設する計画を立てている状況。

■地域と地域を結ぶ「連系線」の増強

そしてもう一つ大きな動きが、東北電力東京電力を結ぶ送電線能力の増強だ。現在の計画では、東電管内で消費される電力需要の5分の1程度を首都圏に送れるようにすることを目指す。東北地方では発電設備の大幅な増強が見込まれるが、首都圏への送電容量が不足していることがこの施策の背景にある。ボトルネックを解消し、主要消費地の首都圏に電力を送りやすくするのだ。

ただ東北から首都圏に電気を送るには電力会社同士が電力をやりとりするのに使う「連系線」と呼ばれる送電線の容量が不足している。そこで広域機関は新たな連系線を建設する方向で調整に入った。連系の長さは計約140キロメートルで、工事費用は1,390億円以上と試算される。用地買収に時間がかかることもあり、工事には10年ほどかかりそうとのこと。費用は連系線を利用して首都圏に電気を送る電力会社が負担し、一部は家庭や企業の電気料金に転嫁する方向。経産省関係者は「当初は料金の値上げ要因になるが、長期的には競争を通じた料金の引き下げ効果が期待できる」と話す。

また、災害時に電力会社間で電気を融通しやすくなることも大きなメリットの一つだ。東日本大震災時には電力会社間で電気を円滑に融通できず首都圏は地域ごとに電気供給を止める計画停電を実施した。連系線の増強は他の地域(北本連系設備、東京中部間連系線)でも加速している。

 

感想

欧米諸国でもその効果をまだ十分に検証できていない「電力自由化」。この政策を推し進めることにはある程度のリスクが伴うだろう。しかし、日本という国において忘れてはならないのが、東日本大震災時の教訓だ。現在進められてる連系線の増強は、有事の際、被災地への安定した電力供給を可能にする。「電気料金の値下げ」という観点からのみその是非を推し量ることができない大切な事業なのである。地震大国である日本において、将来の地域・人々を支えることに繋がるのこの政策が、無事成功してほしいと思う。