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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

A Monster Calls〜怪物はささやく〜

A Monster Calls モンスターが語る物語

かねてより読みたかったが、なぜか書店には置かれていなかった小説があった。人間の性、その本質を描いた大人向けの絵本である。

 

そしてそれを街の図書館でたまたま見つけてしまった。さっそく借りて、行楽の合間に流し読み。そういえば、図書館で本を借りたのは小学生以来だ。

 

 

我々が表面的に発する言葉は全思考のほんの一部分であり、それは理性のフィルターを通じて整えられた飾りのようなもの。その他の大部分は、他人には理解しがたい程に難解で利己的で、そして矛盾に満ちている。

 

誰人の中にも良心と悪意が共存しており、それらの狭間で判断が付かないことが往々にしてある。そららは、悩みや苦悩、葛藤と呼ばれる状態であり、その本質を本書「怪物はささやく(A Monster Calls)」では「怪物」の存在と「物語」により表現している。

 

 

 

決して人に知られたくない猟奇的な自分に恐怖したことはないだろうか。目の前の人間を賛美しなららも内心は嫉妬と侮蔑で溢れている。自己顕示欲が抑えられない。極めて自分本意な己の存在に気づいたことはないだろうか。そして、周りの人間も自分と同様に悪魔的な思想を持ち合わせているという事実を想像し、ゾッとしたことはないだろうか。感受性は人によって違うので、一概に決めつけることができないが、今私が綴っている文章で伝えんとしていることは、なんとなくでも理解いただけるはずだ。

 

他人の中に介在する攻撃的思想の存在を知りながらも、コミュニティに属し、その中で当たり障りなくやっている。人間というのはとてもおかしな生き物だと思う。

 

「怪物はささやく」では、余命わずかな母親と暮らす少年コナーのもとにイチイの木でできた怪物が現れる。怪物はコナーに3つの物語を話す。物語では、善人が悪人となり、悪人が善人となる。それが人間の本質であることを本書は伝えている。怪物が矛盾する3つの物語をコナーに話したのは、コナーを癒すためだ。自分の内側に確かにある「誰にも言ってはいけない秘密」が、人類共通の極めて普遍的なものだと理解させ、そのしがらみからコナーを解放するためだ。

 

人間の心は、善と悪という単純な二元論では表現できない。グラデーションのように様々な思想が折重なり、オーロラのように刻一刻とその色を変える。コミュニティの中で他人と生きていくには適切でない「こころ」を自分の中に宿し、それを憂うこともあるだろう。しかしながら、人間とはそういうものなのだ。

 

ちなみに、本書を原作とした映画がまもなく日本で公開されるようだ。本の世界観を完璧に表現することは難しいだろうが、トレイラーを見る限りなかなか面白そうだ。暇ができれば観に行ってみよう。

 


『怪物はささやく』