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kaidaten's blog~書評ノート~

日経新聞の要約や書評を中心にエントリーしてましたが、最近はざっくばらんにやってます。

ある女性が出会った人に本を勧めてみて得られたこと(書評)

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出会い系×本が生み出したヒューマンドラマ的小説


タイトル通り、出会い系サービスで知り合った人に本をお勧めするというユニークな経験を綴った小説。何の気なしに読んでみたらこれがなかなか面白かったので書評としてエントリーする。

 

新たな出会いは、自分が置かれた環境が大きく変化したときに起こる。進学、就職、転職など、色々あると思う。この本の筆者は、夫の不倫に端を発した離婚危機に加え、キャリア上の大きな問題点にも直面し、まさに八方塞がりな状況に陥っていたみたい。家を飛び出し、根無し草のような生活を続ける中で、たまたま見つけた出会い系サイト、それがこの小説の舞台となる「X」。

 

Xは一般的な出会い系サイトとは少し趣きが違うサービスを提供している。プロフィールを見て興味を持った人と30分〜数時間の「トーク」を事前に登録して、後日会って予約した「トーク」時間内に話をするというもの。アイデアや刺激を得たい人、夜のパートナー探しをする人、ただただ愚痴を聞いてほしい人、利用頻度や用途は人によって全く違うのだけど、著者は「出会った人に本を勧める」武者修行の場としてXを活用することを選択する。

 

本を勧める中で広がるネットワーク

男女問わず、様々なバックグラウンドの人と出会う主人公。身体目的のゲス野郎や妄想男にうんざりする一方で、コーチングを生業にしている女性に無料のコーチングを受けて思わず自分の奥に眠る気持ちに気付かされたり、IT業界のコワーキングスペースに出入りして新たなコミュニティに所属するようになったり、これまでの活動範囲では決して出会うことのなかった人たちとの交流を広げる中で、徐々に視界が開けていく。

 

ちなみにこの著者、Xでの武者修行時はビレッジバンガードの店長で、サブカル系を中心に本への造詣が深く、それを何かに活かせないかと模索した結果、人に本を勧めるようになる。基本的にこの小説は本を通した人との出会いにスポットが当たっているのだけど、ちょいちょい登場するおススメ本のラインナップが割とおもろい。ノーベル賞受賞する前のカズオイシグロ著「私を離さないで」や、ケッチャムの「隣の家の少女」だったり、当時にしてはやたらコアな選書があるので、そういうところも見所の一つ。なんか本読みたいけど、何から手をつけていいか分からん、というライトな読者は一度この本に目を通して見ればよいと思う。

 

物語中には、京都にあるガケ書房も登場する。私も学生時代に何度か訪れたことがあるが、非常にパンチの効いた書店。著者はかねてより憧れていたガケ書房の店長と飲みに行くという素晴らしい経験を経て、初めてイベント主催者になり(初見の人にその場で本を勧めていくわんこそばならぬ「わんこ本」イベント)、そして新たなキャリアへの一歩を踏み出す。

 

人生色々あるけど、やっぱ人より行動した人って、普通に生きてたら見えない景色に出会えるよね。私も何かにチャレンジしてみようかなー